青空の卵/坂木司
- 作者: 坂木司
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2006/02/23
- メディア: 文庫
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「なぜ安楽椅子探偵はああも腰を上げないのか」「なぜワトソンはホームズをああも信仰しているのか」といったお約束を、やや真面目にパロッた*1作品集。
よくよく見ると、実は全編「婉曲的過ぎて届かないメッセージ」をテーマにした謎解きに取り組んでおり、男女の性差、友人、夫婦、親子とバラエティに富んでいる。
このバラエティの豊かさ―関係性の目録は、ありとあらゆる人間関係が例外なくコミュニケーションの不能に陥る可能性があることを示唆しており、各編の犯人(?)たちは「精神的引き篭もり」に罹患しているといえよう。
これに対するは一般的引き篭もりの鳥井真一。関係人物がいかにしてコミュニケーションの齟齬を生じたかを解明していく姿は、自らの鏡像に対峙しなければいけない試練の姿とも受け取れる。鳥井が度々見せる犯人たちへの悪態およびヒステリックに叫ぶ様は、自らへの苛立ちをも内包していると邪推できよう。
ここでまた「探偵と犯人の相似性」というお約束が現代的な意匠を借りて蘇る。何とも内省的、自己言及的である。
ともすれば神経質すぎるとも批判されかねないキャラ・プロットだが、上述のようにいわば古典的探偵小説の換骨奪胎。
この作品があざとすぎるとすれば、それは感動を狙ったかのようなテーマ設定ではなく、計算され尽くした構造である。
近々に続けて文庫落ちするようなので、シリーズ最後まで読んでみたい。
*1:注:この点については筆者の完全な主観による印象である事をことわっておく。