黒猫の三角・人形式モナリザ/森博嗣

黒猫の三角 (講談社文庫)

黒猫の三角 (講談社文庫)


人形式モナリザ Shape of Things Human (講談社文庫)

人形式モナリザ Shape of Things Human (講談社文庫)


約2年ぶりに読む森博嗣。『有限と微小のパン』に怒りを感じて以来絶縁していたのだが、新シリーズは読んだ事が無かったので読んでみる。
ちなみに『有限と微小のパン』が駄作だと思う理由はこちら(以下ネタバレ反転)。


ミステリーにおいて一人の人間が大勢の人間を騙すのは良い事だが、大勢の人間が一人の人間を騙すのは駄目だという趣旨のことをジョン・ディクスン・カーはかつて論じた。全くその通りだと思う。あと冒頭の怪奇に対してあの解決は島田荘司ら先達をおちょくっているとしか思えない。この作品は本格ミステリへのアンチテーゼなんですよ、とか仮に言われたとしても怒りは禁じえない。


さて、Vシリーズの最初期2作なのだが、想像していたより面白かった。あらすじ等から全シリーズ以上にスクエアなのかと思っていたら、全くそんな事はなくむしろ歪だ。森は前シリーズ後半からパズル性の排除や叙述への凝りを見せ始めていたのだが、それが深化したと思う。あと、別の理由からこのシリーズは面白いと思った。その理由とはこちら(以下ネタバレ反転)。


まだ最初の2作しか読んでいないが、これは山田風太郎の某作で系統立てられた名犯人小説だと思った。厳密には事件の犯人は毎回違うのだけど。シリーズの1回目という設定を逆手に取った「レギュラーが犯人」という真相(森の速筆すらミスディレクションに働いている)、1作目で欠番になったレギュラーの補充もまた犯罪者という読者の盲点を突いた発想は素直に面白かった。こういうのが鼻につく人もいそうだとは思ったけど。作品内のパズル性から作品外のミスディレクションに重きを置くという手法の変化が良い感じに作用している。


まあもう少しくらいはこの作家に付き合ってみるか、と思わされた。