読者よ欺かるるなかれ/カーター・ディクスン

読者よ欺かるるなかれ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

読者よ欺かるるなかれ (ハヤカワ・ミステリ文庫)


H・M卿シリーズの中期の作品。


正直トリックは首を捻るほど小品。恐らく同一のものを戦後日本のミステリで知っているからだろうけども、ああいうシチュエーションならば殺害方法は自ずと限定されてくるので、ほとんどの読者が遠からず見抜いたのでは?
しかし、本書の最大の目玉はタイトル通りのミスディレクションの巧みさにあるので、トリックなどはあまり問題ではない。
特に作中に挿入される作者の注意書きなどは、真相を知った後で考え直すとここまで計算されていたのかとうならせる。カーがこの作品でやりたかった「トリック」の主眼はむしろこちらにあると思う。


惜しむらくは前作『五つの箱の死』を読む前にこちらから読んでしまったために、登場人物の一人サンダースを取り巻く状況を理解するのに時間がかかってしまったことか。いや、私が悪いんだけどさ。このサンダースの性格というのも事件の謎解きに一役買っているので、前作から続けて読んだ方がきっと面白いのだろう。