暗黒大陸の悪霊/マイケル・スレイド

暗黒大陸の悪霊 (文春文庫)

暗黒大陸の悪霊 (文春文庫)

『髑髏島の惨劇』に続くスペシャルXシリーズの5作目。
ちゃんとした解説は巻末の法月や他の人がやってくれているのでそちらを参照ください。
前作で死んだはずの主要キャラクターの一人、ジンク・チャンドラーは何事もなかったかのように復活していることに衝撃。1年間病院に入院して完治したってそんな無茶な。『魁!男塾』のノリである。
実はスレイドという作家に対して一番興味を覚えているのは、この『魁!男塾』、『聖闘士星矢』ひいてはそれらに影響を受けたと思われる清涼院流水の作品群に通じるノリだ。
キャラクターのプロファイルは膨大な(しかし薄っぺらい)情報によって構築され、その生死はプロットの都合で適当に操作されるという「キャラクターの粗製濫造」。こういうのは漫画・ゲーム大国である日本独自のものだと思っていたので、このカナダ出身の作家ユニットに驚かされる。


また、カーへのリスペクトとやらで前作は論争を起こした様だが、スレイドは絶対確信犯だ。『嘲るものの座』『ユダの窓』といった隠喩がでてくる第2部の法廷シーンは、「今までスプラッタやら本格やら色々やってきたから今度はリーガル混ぜようぜ」といった意思以上に「ジョン・ディクスン・カー様も挑戦した法廷物をやってみたいぜ」という意思があるような感じがする(あくまでも「感じがする」。そんなの本人達にしかわからんが)


本筋とはあまり関係ないカーチェイスとか、カットバックされるズールー軍VS騎馬警察とか、ラストのチャンドラーVS灰色団&○○(まあ、読めばわかる)が楽しかった。
まとまりのないプロットと言われてしまえばそれでおしまいだが、この何でも詰めちゃえ感がスレイドの素晴らしいところだと思うので、これらが楽しくない人はスレイドに向いてないと思う。
アルフレッド・ベスターを「ガラクタから作りあげた芸術」と評したのはデーモン・ナイトだが、マイケル・スレイドは「ガラクタから作りあげた楽しいガラクタ」だと思う。


ラストのフィニッシング・ストロークは○○○(まあ、読めばわかる)で、個人的に面白いと思った。法月は「フーダニットの様式美を極めたラスト」と言っているが、実は犯人が誰かなどはどうでもよく(一応説明っぽいことは言っているが)、それまでの構造の鮮やかな反転がミソなのだと思う。木製の王子のアレに通じるものあり。