死の序曲/ナイオ・マーシュ

死の序曲 (ハヤカワ・ミステリ 476)

死の序曲 (ハヤカワ・ミステリ 476)

ポケミス復刊で買った1冊。
イギリスらしさ爆発。イギリス人は人から殺意を買うほどゴシップが好きらしい。
シリーズキャラのアレン主席警部は「どんな人ですか?」と尋ねられてこんな人ですと答えられないくらいどんな人かわからない。イギリス探偵小説はウィットに富んだユーモアややたら凄い肩書きなどで、キャラ立ちが凄い(過剰という意味ではない)というイメージがあったので意外だった。


時代の関係もあってか思い出したのはブレイクの諸作品。感情のウェット加減などは近いと思う。謎解きが地味だけど、作品の性質上それが要請されたものであるところなども。
作者の名前だけが先行していて日本ではどうも馴染みが薄い。そこそこ面白いだけに(イギリス新本格なんてほとんどそんな感じだが)もっと刊行して欲しい。


追記


どうもナイオ・マーシュのシリーズキャラクターであるアレン首席警部がどんな人物か知りたくなり、調べてみた。下記に詳しくあった。


http://www1.speednet.ne.jp/~ed-fuji/unknown-marsh.html


なんと恋愛結婚していた!しかも一度失恋!
一児を設けてその子供が成長するあたりや輝かしい功績による昇進などイネスのアプルビイ警部を彷彿とさせる。
黄金期〜戦後イギリス本格と『結婚』というものは切って離せない関係にある。女性のサクセスとしての『結婚』を描いたブランド、妻と情人の間で揺れる男の愁嘆場を描いたブレイクなど、動機面などのミステリ的プロットに安易にではなく密接に絡むことが増えたといって良い。
同時に警察に代表される探偵側の世間的ステータスも重要視された。『昇進』の問題である。探偵役がディレッタントから普通人へと移行してきたのだ。
探偵の『結婚』・『昇進』…日本の高度経済成長期の本格みたいである。いわゆるサラリーマン本格だ。重厚さをまとったようなイメージのあるイギリスの探偵小説も大衆の読み物へと静かにシフトしていたのかもしれない。