赤後家の殺人/カーター・ディクスン

赤後家の殺人 (創元推理文庫 119-1)

赤後家の殺人 (創元推理文庫 119-1)


ひさびさにカーに浸る毎日。時間を経てはじめてわかる良さや粗さがある。都筑道夫『黄色い部屋〜』を読んだばかりなので、「必然性」というものについて考えながら読んだ。


都筑の指摘通りカーの作品に必然性は少ないかもしれない。カーなど嫌いという人の主張はわかる。しかし、カーの研鑚は必然性とは別のところにあり、ミスディレクションストーリーテリング、ロマンチシズム&オカルティズム、トリックのシンプル&ダイナミックにある。
確かに必然性はパズルをより一段上に高めるための要素ではあるが、これだけが傑出したところで作品が面白くなるわけではない。都筑の『退職刑事』はパズラーとして良く出来ていると思うが、私はあまり傑作だと思わない。なぜなら、親子の会話が続くだけという演出が単調に過ぎるし、プロットも「読まされている」感を強く感じるからである。


カーの凄いところは前述の諸要素の優れたパイオニアであるばかりか、後進の作家が誰も再現できないところにある。カラーにユニークネスがあるので、「時代に量産された」という印象が無い。そのために、独特の味わいがある。
瑕疵があろうとカーはやはり凄い作家なのだと思う。


…が、赤後家はトリックに唖然とする。いくらファンでも笑えないものは笑えない。短篇なら許せたのかもしれないけど*1

*1:と初読時は思ったが、あとになってオカルト趣味が優れたミスディレクションになっていることに気付き、この作品のトリックの素晴らしさに感動する事になる。