テニスコートの謎/ディクスン・カー
- 作者: ディクスン・カー,厚木淳
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1982/04
- メディア: 文庫
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なぜか周囲で人気が高い1作。個人的にはあまり傑作とは思わない。
第一の殺人は確かに大きな奇想で、同じく「雪の足跡テーマ」を用いた『白い僧院の殺人』とは趣向が全く違うという点でトリックにかける意欲を垣間見せる点は評価できる(使いまわしが多くヴァリエーションをあまり持たない作家なだけに)。
しかし、○○○が○○したからトリック成立というのはあまり好ましくない。犯人や被害者や周囲の人々の犯行時の心理に依存する殺人というのは、その心理に至る説得力を持たせて効果的なものになるので、その一点ではやや無理があるように思える。
第ニの殺人は必要皆無。チェスタトンまで引き合いに出してあれならばどうしようもない。
欠点ばかり挙げても仕方がないので美点を挙げると、主人公&恋人VS犯人VSフェル博士という三つ巴のプロットが良い。しかもかなりのカー作品には「配偶者を疑う」テーマが盛り込まれているので、主人公は恋人すら信用ままならない。このため複雑化した人間関係がかなり面白い。
ちなみに、この作品の登場人物一覧にはフェル博士が「犯罪捜査の天才」と記述してある。フェル博士の脅威に主人公達が脅えるという話なので、臨場感たっぷりだ。