氷菓/米澤穂信

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)


角川スニーカー文庫角川学園小説大賞奨励賞受賞の「日常の謎」系ミステリ。


本屋にこれが置いてなかったので『愚者のエンドロール』から読んでしまった。結構探してようやく入手。


連作短篇スタイルをとっている本作だが、各編の謎解きは地味である。旧来の本格を読んできた人間は肩透かしをくらうかもしれない。トリックの凄さやロジックの緻密さ、動機の異常さなどに本格の面白みを感じる人にははっきりいってつまらない作品だろう。
しかし、この地味さは逆に新鮮であるように感じるのも事実。「部室になぜ鍵がかけられていたのか」、「図書室で毎週同じ時間に同じ本が貸し出されるのはなぜか」、「なぜ新聞部の部長は部室に部外者が入るのを嫌うのか」といった謎は派出さこそないが、現実の学園生活でも起こりうる謎である。それまでの学園を舞台にしたミステリーがいかに現実離れしていたかを思い出していただければ(『密閉教室』とか)、この作品の「地に足のついた」プロットは目新しく感じられるだろう。「ほろ苦い青春」系と銘打たれているのも納得。『僕の夏休み』とかとテイストが一緒。
…が、ヒロインの叔父の過去は感の良い読者なら半ば予想がつくものとはいえ、あれを持ってくるとは驚く。しかもヤングアダルトのレーベルで。下手に扱うとバカミスになってしまうのだが、そこは作者の手腕で良い話に。


あと、大方の読者は気にならないのだろうが、惜しいなと思ったのは作中の時間進行。入学したと思ったら、すぐ夏休みに入ってしまった。学園生活のほろ苦さを描くのであればもう少し時節を取り入れても良かったのでは?