漱石と倫敦ミイラ殺人事件/島田荘司

漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫)

漱石と倫敦ミイラ殺人事件 (光文社文庫)


ドイルと漱石パスティーシュが交互に事件を追う。島荘84年の佳品。


ホームズと漱石が邂逅していたというネタはすでに前例がある(某天才作家の短篇)。しかし、この作品にとってシチュエーションは目的でなく手段だ。交互に繰り返される文体パロディの素晴らしさもさることながら、パロディであること自体がミスディレクションという面白い趣向。
歴史ミステリでは登場人物がラストに「実は私の本名は○○です」とかいって、それが歴史上の有名人物だったとかいうサプライズは常套である。しかし、島荘はその手のサプライズは捨てて、新しいミスディレクションを創出したところにセンスを感じる。
カーの『火よ、燃えろ!』なんかが近いと思います。あの作品のアレを島荘はパロディ文体で補強したわけです。


あんまり期待してなかったら意外と面白かった。この頃の島荘はやはり神がかっていたんだなあと思った。