永遠の森/菅浩江

永遠の森  博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)


星雲賞・推協賞受賞。菅の代表作。


この作品のテーマは「美の感じ方」。情報検索機械に接続された学芸員の「分析」と生身で作品を感じ取る「印象」の二項対立が終始つきまとう。
最終篇『ラブ・ソング』での主人公田代と妻美和子のすれ違いはそれが結集されたものである。
論理で美術作品を愛でる「分析」と作品をただ感じ取ったままの「印象」。どちらが正しいのかという答えは用意されていない。田代は学芸員の立場でありながら「ロマン」を忘れなかったし、美和子も学芸員になることで田代の立場を理解しようとする。
「答えは用意されていない」という警告、つまり「美の感じ方」が目的化され、肝心の「美」そのものが置き去りにされているという警告は何も作品世界内の未来に発せられたものではなく、現代人にも十分訴えかける。読者に「考えさせるSF」だ。


また、情報データベースが全てギリシャ神話の神にちなんだ名前であるのも興味深い。ギリシャ神話の神々とは世界の神格のなかでも最も「ヒューマニズム」に溢れた神である。全能の神に例えられた圧倒的情報データベースに接続された学芸員が情動を持ちうることのアレゴリーならば、これ以上無いうってつけのネーミングだ。


足掛け十年。菅の作家人生のほとんどを注ぎ込んだこの作品は20世紀最後のSFに相応しい出来になっている。

おまけ
何故この作品がSFなのに「推協賞」なのか?
1…発表時、菅の最高傑作(これ以上のものはしばらくかけないだろう)だと判断されたから。
2…北森鴻とかに代表される「キュレーターミステリ」の範疇に入ると思われたから。
3…連作短篇の構成が上手く、ミステリっぽいから。
4…他に妥当な作品が無かったから。
5…菅ブームを巻き起こそうとした人々の陰謀と思惑。
6…上記の理由全部。