極限推理コロシアム/矢野龍王

極限推理コロシアム (講談社ノベルス)

極限推理コロシアム (講談社ノベルス)


講談社ノベルス。第30回メフィスト賞受賞。


『キューブ』+『十角館の殺人』という既存のネタの組み合わせ。他にも『クリムゾンの迷宮』とか色々混ざってるんだろうが。
本格ミステリーとは往々にして先達を改良して進歩していくものだが、その進歩が微々たるものであったなら評価されない。本作もあまりにも有名過ぎる本ネタに対して、極めて異質な改良を試みている。ネタ自体は確かに今までに無かったものである。


しかし、この作品は傑作ではない。


この作品のミソは「閉鎖空間が二つ存在し、その二つの間の駆け引きが重要である」点だ。『キューブ』にも『十角館の殺人』にも無かったエッセンス(この作品のオリジナル要素)だ。
しかし、読者はこう予想することは容易である。
「『キューブ』や『十角館の殺人』とは異質のサプライズ(およびトリック)を引っさげると言うのなら、そのヒントはこの作品オリジナル設定である「閉鎖空間が二つ存在し、その二つの間の駆け引きが重要である」点にあるだろう」と。
つまり、設定が異質であるだけに、そこから導き出されうる最大限のサプライズは、実は必然的に見え透いていて、なんのサプライズにもならないという陥穽である。
西澤保彦の『七回死んだ男』とか思い出してください。
作者がどんなサプライズを持ってくるのかを予想した場合に、読者は必ず「「七回」って部分を上手く調理するんだろうな」と思うでしょう。そして、実際に作者は「七回」の部分にメインサプライズを仕掛けたでしょう。


設定を含むネタが先行した作品というのは、その設定から導き出されるサプライズが逆に手繰れるという致命的な弱点を抱えている。今までにない斬新なネタである程、容易にサプライズが見ぬけてしまうという弱点。
そこをどうやってカバーするかというと、それは中盤のロジックの完成度であったり、ドラマの厚みであったりするわけで、このあたりは西澤は上手いので西澤のSFミステリーは面白いのだが、矢野にはそれらがない。だからネタは斬新でも傑作足りえない。


ちなみに綾辻がこの作品に与えた影響は大きいと思われる。
『十角館』を核に、ある作品(これも綾辻の作品)を加えた感じ。
だってこの作品のサプライズはその作品をネガポジ反転させたものでしょう。