チャーリー退場/アレックス・アトキンスン

チャーリー退場 (創元推理文庫)

チャーリー退場 (創元推理文庫)


創元推理文庫。クライムクラブの新訳決定版。


解説や瀬戸川猛資が誉めている通り、臨場感がこの作品のウリだと思う。わずか一日の出来事を駆けぬける370ページ。ノンストップのプロットは流石としか言い様がない。
これは紋切り型の名探偵批判「本当に探偵が天才なら事件を早期解決できるはずではないか」という命題と「長編小説である以上ストーリーに厚みを持たせて長く読者を楽しませるべきではないか」という作家の苦悩に対する、1つの完璧な解答なのだと思う。
全ての長編本格ミステリの手本になるような素晴らしいプロットだ。


また演劇ミステリとして読んだ場合、さすがに1955年の作品であるゆえに、本格黄金期を踏まえたうえでの改良が随所に見られる。
演劇そのもののディティールは申し分無いし、発端および解決編と演劇の絡みは絶妙である。最終章格好良すぎ。


とまあベタ誉めのように聞こえるが、瑕疵も当然いくつかあるわけで、まずトリックが地味だ。スマートなんだが、論理にワンダーが無いというか(ああ、自分で書いてて意味がわからない文章だ。)なんというか。長編ミステリはこれ一作だけの人らしいので、その上でなら上出来なのだが、プロパーにはセンスで及ばない。
あと人物はそこそこ魅力的だけれど、描写力はもう少し欲しいところ。マクロイ『家蝿とカナリア』なんかと比べると、もう少し演劇界のえげつない部分があってもよいと思いまーす。


とはいえ、佳作レベルはゆうに越えているので、演劇本格ミステリが読みたいという人には薦める。それくらい面白い。