超・殺人事件/東野圭吾

超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)

超・殺人事件―推理作家の苦悩 (新潮文庫)


文庫落ちしたので暇つぶしに読んでみた。
「超高齢化社会殺人事件」は90歳作家の痴呆が繰り広げるドタバタの顛末を書いた作品だが、土屋隆夫が87歳で新作を上梓する現実があるわけで、事実は小説より奇なりを地でいってるよなあ。
つーか土屋隆夫化け物。


個人的に一番面白かったのは「超税金対策殺人事件」だったりする。オチは凡庸なんだが、過程が面白い。


この短篇集を読んで思ったのは、東野のギャグネタは思いついたら誰でも書けるほど普遍的なものだという事。ネタそのものにこの作家をしてはじめて書きうるという性質は無く、飲み屋の馬鹿話で出てくるようなものばかりだ。この作品集の全八篇、本好きな人なら誰でも一度は考えた事があるようなネタが一つくらいは入ってるでしょ?
にも関わらず東野作品が多くの人々を魅了するのは、面白そうなネタを妄想に留めておかず、実際に書いてしまうところなのだと思う。
名探偵の掟』とかもそうなんだが、誰もが一度は夢想したことのあるネタなのに、実際書くという行動に移したやつはおらず、いざ東野が発表したら「悔しい!先を越された!」「うんうん、俺も考えたことあるよ、こういう作品」というジェラシーやシンパシーを生む。東野作品はこうした共感性ゆえに愛されているのだと思う。


あとはネタを補強する筆致に長けているのが特徴か。小説の巧さがネタを活かしているので、凡庸なネタも上手く調理されている。