ミレイの囚人/土屋隆夫

ミレイの囚人 (光文社文庫)

ミレイの囚人 (光文社文庫)


初出は99年。


サスペンス調の監禁事件から始まり、本格として締めくくる。しかも馬鹿トリック。老年となっても土屋の本格スピリットは衰えを見せない。

以下ネタバレ。
底辺に流れる男性の昏い情熱はそのままに、少年法の理不尽さを織り交ぜて語られる動機は、明らかに神戸少年殺傷事件と前後する少年犯罪を意識しており(創元推理文庫版441ページ6行目)、相変わらずの古臭いプロット、文体でありながらも、精一杯の時代性の折込が見られる。


人物視点のばらつきが何だかおかしいなと思う前半と後半のぎこちなさだが、当然作品が成立するためのアレやコレであり、そのための逃げ道も用意されている。まあ、これくらいなら目くじら立てるほどのことでもないし、その結果表出する馬鹿トリック(土屋作品最大)はかなり面白いのでアリだろう。


残念なのは、前半の監禁がミステリとして謎を深めるための装置でしかなく、小説の主題的には対したことのないウェイトだったこと。お話が盛り上がれば何でも良いというわけではない。


あとは中盤の刑事達のやりとり。いきなり地の文を排して、戯曲形式で始まる推理ディスカッションが面白い。戯曲も齧っていた土屋ならではのお遊び。非常にコミカル。
思うに、土屋はテキストを使った演出が非常に上手い作家だ。『天狗の面』の田舎臭い語り、『危険な童話』に挿入される童話、『影の告発』のカットバック、『盲目の鴉』の作中作の文芸評論などである。時にはコミカルに、時にはリリカルに縦横無尽に炸裂する技巧は職人芸だ。