暗闇の薔薇/クリスチアナ・ブランド

暗闇の薔薇 (創元推理文庫)

暗闇の薔薇 (創元推理文庫)


ブランド最後の長編。1979年発表。


チャールズワース、クリストフ衣装店、サン・ホアン・エルピラータなど、ブランド作品の懐かしい面々が勢ぞろいの作品。しかも冒頭の宣言文、提示される魅力的な謎、後半怒涛の多重解決など、老境に至ってブランドのサービス精神ここに極まれり。黄金期の女王最後の1球はど真ん中ストレートだった。


主人公サリー・モーンは『疑惑の霧』のロウジーに輪をかけたようなエキセントリック人物であり、彼女のサロンや警察がサリーの一挙一動に振りまわされ、それがパズルを一層複雑かつ魅力的にしているという、ミステリ的にもストーリー的にも印象的なキャラだ。特に中盤の修道院のシーンは彼女に関する青ざめるような衝撃が待っていて、物語が平坦に終わる事を拒む。


さすがにロジック展開には全盛期ほどのキレはない。チャールズワースの再登場もおまけ程度だ。しかし、サリーとそのサロンの衰亡を描いた物語としての『暗闇の薔薇』は超一級である。


以下ネタバレ
この作品の肝は、冒頭の宣言文に示されているサリーの取り巻き達が、容疑をかけられては無実が証明され、サリーに決別して1人1人去っていくところだろう。ブランド得意の登場人物総容疑者化を寂しさと狂気も演出してトッピングしたことにより、サリー一人が残るラストが印象的。ブランドの最後の作品であるという事実と照らし合わせると、彼女の作家生活のカーテンフォールに相応しい不気味な静けさだ。