私が見たと蝿は言う/エリザベス・フェラーズ

私が見たと蝿は言う (クラシック・セレクション) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

私が見たと蝿は言う (クラシック・セレクション) (ハヤカワ・ミステリ文庫)


早川からクラシック・セレクションにて復活。


何が酷いかと言うと、いくら旧訳がフェラーズに対して少ない知識をもとになされたものだからといって、この作品をパズラーだと認知されてなかった再評価以前のフェラーズ評価。ブランドばりの多重解決なのに。


アパートメントの住人を巡るやり取りはあくまで軽妙で面白いが、最初期のトビー&ジョージシリーズのような能天気な明るさはない。少し抑えたビターな明るさだ。おそらくこのあたりが、旧訳を陰鬱なものにしてしまった原因かと思う。
登場人物の平均年齢は比較的高く(といってもフェラーズ全70作の中、邦訳されているのはたったの7作なので十全な比較とは言いがたいが)、そのよすがとしての抑えたユーモア。


十分面白い作品だったが、トビー&ジョージシリーズのような習作ならではなの稚気はない。それをフェラーズの醍醐味だと思うような読者には少し物足りないかも。