キマイラの新しい城/殊能将之
- 作者: 殊能将之
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/08/06
- メディア: 新書
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ノベルス版P144で『ビロードの悪魔』に言及されていることから、かの作品の反転バージョンが下敷きなんじゃないだろうか。だとするとロポンギルズの戦いとかエドガーの悲恋とかが対応しているわけで腑におちる。
とすると、この作品の楽しみ方の1つは当然『ビロードの悪魔』と同じで、エドガーの冒険を純粋に楽しめれば良いのでは。
もう1つの注視すべき点は、探偵による推理の審判がエドガーの昇天=神の審判に拠っている点で、ラストに御大の某作品とかアクィナスとか引っ張ってきてまで殊能が表現したのは、「探偵による解決≠真理」の図式。『黒い仏』のテーマ「探偵とは、真理とは?」を別アプローチで調理。お次はお釈迦様でも出てくるのか?
というわけでどのように楽しんでもお釣りがくる佳品。石戯版密室講義も面白かったし。
以下ネタバレ
→よりによって、石戯があんな提案しなければ殺人事件は発生しなかった。『ジャンピング・ジェニイ』みたい。もはや水戸黄門の印籠並みのお約束なのかも。
毎回好例の登場人物名前元ネタはエターナルチャンピオン。江里=エルリック、古根=コルム、鷹月=ホークムーンとか。未読だから詳しく知らんので何とも言えない。
・補遺
カーとの関連性について気になった以下の部分。
――歴史ミステリもちゃんと読まなくちゃだめだ。『ビロードの悪魔』は傑作だよ……。(ノベルス版P144上段3〜4行目)
『キマイラ〜』が『ビロードの悪魔』を下敷きにしたのではないかというのは前述したが、良く考えるとカー作品へのオマージュは古今東西数知れず、後期の歴史ミステリを持ち出してきた例は以外と少ない。単純に小説としての旨みだけならこっちの方があるし、カー自身筆がノリノリだった(と思われる)のもこちらなのに。
また作中では、
――つまり、ぼくなんかが考えつくようなアイディアは、カーはすでに全部小説に書いている。(ノベルス版P101下段7〜9行目)
と石戯が述べている。カーのトリック作法なんかを参考にしようとしてもすでに本家がやり尽くしているから、『キマイラ〜』は別の部分を吸い取ろうという試みだったのかもしれない。
あと、エターナルチャンピオンシリーズを急いで何作か読み終えたので、件の天使とキマイラに関してもう少しマシなこと言えそうな気がする。
法=天使、混沌=キマイラで、エドガー=江戸川乱歩は混沌に庇護を求めたということだとすると、「キマイラの以前の城」=幻影城で、ラストで天使側へ改悛して新しい城へという読み方が出来る。