嘲笑う闇夜/プロンジーニ&マルツバーグ

嘲笑う闇夜 (文春文庫)

嘲笑う闇夜 (文春文庫)


1976年。プロンジーニとマルツバーグのコンビ1作目。

原題の“The Running Of Beasts”は直訳で「獣達の疾走」。作中では登場人物の1人であるフックに「競馬」の事ともとられている。
この原題は『嘲笑う闇夜』の作品性を的確に言い表しているといっても過言ではない。獣=狂気の疾走感こそが最大の特徴であるからだ。


基本的にはアメリカのとある街で起きた猟奇殺人の真相を追うというストーリー。事件に関わる人々の抱く疑心や不安が目まぐるしいカットバックで煽られる。特に中盤のモーテルやラストの植民地街のシーンは1ページで3人くらい視点が入れ替わり、この迫力感はかなり良い。


肝心の「殺人鬼は誰か?」といった謎に対しても、物語の冒頭で「この事件の殺人鬼は犯行時の記憶がなく、自らの罪に自覚がない」といった前提が付され、登場人物全員が「もしかして殺人鬼は俺?」と疑いを抱くので、最後の最後まで読者は引っ張られる。ここら辺のリーダビリティは神がかっているかのように高い。


また、前述したように原題には「競馬」の意味もある。登場人物達は自分が殺人鬼であるという事を競うかのようにミスディレクションを大量にばら撒く。
その様子はまるで殺人鬼杯争奪レースなので、ナンセンスでありながらも緊迫している。


ラストのオチは美しく決まっているとは言いがたいが、レースの中盤は本当に面白いので差し引いても読む価値あり。この手の話にサプライズが欲しい人には向かないかも。