パルプ/チャールズ・ブコウスキー

パルプ (新潮文庫)

パルプ (新潮文庫)


不良老人の遺作にして唯一の長編フィクション。1994年。新潮文庫


死神から依頼を受け、宇宙人と接触。今までのどのようなハードボイルドも真っ当でお上品に見えてくるほど“安い”小説。それが本作。


至上最低の探偵の視点で語られる様々な事件は、全てが等列に語られる。文豪セリーヌ捜しも、珍獣捜しも、浮気調査も、宇宙人の地球侵略すらも流れるようなテンポで全部がいいかげんに消費されていくのだ。
要所要所のあいまに、主人公は事件を丸投げして酒場か競馬場に浸ってしまう。酒も賭博も女も、どんな事件ともさして差がないという達観。人間のあらゆる営みに対する冷めた視線はアウトローを貫き通した作者ならではのものだろう。
しかし、決して冷めているだけではない。所々に挟まれる主人公のぼやきからは、逆説的にそんなどうしようもない人間への未練すら感じる(ここだけは判断つかなかった。ブコウスキーは本当に人間にむかついているだけなのかもしれない)。老境だからか?


自称スーパー探偵の織り成す冒険の頭抜けたテンポの良さ。考えているが何も考えてないという矛盾に満ちた、それでいて腑に落ちる話。ブコウスキーの筆致も冴えに冴えている。柴田の訳も良かった。


娯楽作品として超弩級なので一読賛嘆あれ。必読。


追記:新潮文庫版の挿絵を担当しているゴッホ今泉がものすごく良い味出してます。この挿絵のおかげで「パルプ感」が倍増しました。