ペニス/津原泰水

ペニス (双葉文庫)

ペニス (双葉文庫)


津原の文章は云々。完。


『ペニス』は下手をすればこれだけで語り終えてしまう危険を孕む。云々の部分はそれこそ様々。
連続性を持つが、同時に断片的でもあるという構成の特性が、様々な姿態の語りを可能にし、我々読者は蛞蝓のようにそこを這っていく。さながら津原文体見本市である。ここでその超絶的な技巧以上のものを感じ取ることがもしも出来たならば、「文章に触れるという至福」を得る事ができる。よく解からない説明でごめんなさい。


さて、『ペニス』には多数の矛盾が含まれている。
先に述べた連続性と断片性、孤独を享受しながらも同時に苦しむ主人公、完全でありながら不完全な小説、空虚でありながら無限に語られる内面。
しかし、主人公が内面へ内面へと意識を向けていく過程にて、これらの矛盾は存在する事を許される。
そこでは閉ざされた内奥へ向かうということは、同時に内部を圧縮し続ける外部をも意識することであるということが明かされ、その境界の混濁に存在を求めても良いという事が感得される。
その象徴があの奇跡と現実の溶け合ったラストだろう。


このシンプルだが奥深い感得を描くための作品の長大さや語りの多様さかと思うと、こりゃ凄いなあと思うわけで、やはり『ペニス』は傑作なのである。