銀河帝国の弘法も筆の誤り/田中啓文

銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)

銀河帝国の弘法も筆の誤り (ハヤカワ文庫JA)


早川文庫。


タイトルを見れば解かる通り、ギャグの語感が先行して物語が造られるナンセンスSF短編集。有名作品のパロディという体裁を取っているものの、それらがベースとしてある以上に田中独特のアイディアが詰まっており、それらが作品の面白さの大部分を成している。
ギャグとして書かれたアイディアは、あっけなく消費されてはいるが、実はこれだけで物凄い傑作SFを書ける程の内容。呪詛による通信とか、公案による宙間戦争とか冴えまくり。いや、逆説的に、これらの宝石のようなアイディアを駄洒落の成就だけに奉仕させているところがこの短編集の凄いところかも。ここはブコウスキーあたりの「パルプはパルプとして消費せよ」に見習って、「駄洒落は駄洒落として消費せよ」という読み方が良いのかもしれない。


まあそんな事はわりと些細で、多くの読者は田中啓文と視座がかけ離れていると思われるが、別に無理して近づく必要はない。近づかなくても楽しめるし、そのくらいの配慮ならかすかに感じる(←後書きのあたり。わずかながら言い訳を感じてしまった)。


作家陣による5つの解説は、田中の作家性に迫った解説というより、作品の一部と見なすのがよろしいかと。