ルピナス探偵団の当惑/津原泰水
- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2004/03/01
- メディア: 単行本
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「津原やすみ」名義時代の作品に改稿や加筆を加えたもの。第3話は書き下ろし。
私は少女小説を読んだ事がほとんどない。しかし、井上ほのかを読んだ経験から、このジャンルでも本格ミステリの傑作が生まれていることは知っている。津原のルピナス探偵団シリーズもそんな中の一つ。正直プロパー外の作家が、このレーベルでこれだけの作品を書けるなどとは思ってもいなかった。
ネタ自体はシンプルかつどちらかといえば小ネタだが、見せ方や伏線の張り方が巧いので十分に堪能できる。発表媒体を考えるとたぶんこういうのがベスト。新本格や古典をベースにしてしっかり作りこまれている(第3話に至ってはチェスタトン!)ので目の肥えた本格オタでも楽しめる。
文章は軽やかで、津原の他作品に比べるとずいぶんテンポが良いが、だからと言ってスカスカになるのは回避されている。「描くべきところ」ではしっかり引き締められているし、会話文ふくめ登場人物の造型はしっかりしているのでガキ向けという印象はほとんどなく、小説としてのレベルは高い。ここらへんは改稿時にいじったのかもしれないが。
さて、この作品は「探偵団」のタイトル通り、4人の少年少女が力を合わせて難事件に挑むというスタイルをとっている。一人一人が非凡な能力を持っているが、誰もが一長一短すぎて、単独では探偵としてうまく機能しない。例えば、「想像力は豊かだが、集中力がない」とか。つまりいくら頭が良くても、あくまで半人前の子供という大前提が存在する。
一方、犯人側の動機は大人という属性でしか持ちえないものばかりで揃えられている。それに挑むためには大人の考えを理解しなければならない。
これは子供と大人の中間に位置するティーンのための小説ならではの空気感。新本格的でありながらも、新本格とは決定的に違う妙味がある。お見事。
おそらくは津原の多才の一側面にすぎない作品だが、それでも凡百の本格ミステリよりは断然面白い。本格好きには薦める。