象られた力/飛浩隆

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)


80年代〜90年代にかけて活躍したカルト作家の初中篇集。バラエティ豊かな題材でまとめた感はあるが、解説曰く「五感をバランスよく刺激」するという魅力は通底している。


作者自身のweblogによれば、絵的な文章と一言に言っても、それは止め絵やイラストではなく、動きを含む絵を意識したという。確かに言われてみればそうで、「夜と泥の」などが持つ官能は静かながらも動的である事によるところが大きい(余談だが、奥泉光「葦と百合」を思いだした)。
「かたち」と「ちから」をモチーフにする以上、この筆致は必然的に要請されたものだと思われる。飛は自身の文章を「下手」と謙遜してみせるが、モチーフとの連動という意味では非常に成功していて、大変イメージを喚起する力がある作家だと思った。


また、叙述に対する拘りも見せ、ちょっとしたミステリ的サプライズが仕掛けられている「デュオ」、メタな構造に凝った「象られた力」など、様々な手を打ってくる。凄いところは、これらの拘りが単なる遊戯としてではなく、ガジェットを機能させるためにやはり要請されたものである点。詳しくは読んでください。


やれやれ凄い作家が10年間も沈黙していたようだ、という事を思わせる力作中篇集。私自身も最近知ったのだが、今からでも追っかけるのは遅くないと思わせてくれる作家だと思う。
集中のベストは「夜と泥の」。