皆殺しパーティ/天藤真


天藤真の小説は好き嫌いが別れる。この人は性善説を信奉しているのではないだろうかと思うくらい人物描写もプロットも善意に満ち満ちているからである。
これを優しさと受け取るか、温(ぬる)さと受け取るかで大きく評価が揺れてしまうだろう。


そんな天藤の比較的悪意に満ちた小説がこの『皆殺しパーティ』だ。タイトルからして物騒ですね、ハイ。
しかし、大方の読者の予想を裏切り、流れる血の量とヴァイオレンスは少ない。手斧で首チョンパとかを期待していた不謹慎な読者は肩透かしをくらう。数々の事件が起こるが、どれもこれもどことなく間が抜けていてユーモアとも受け取れるからだ。


思うに、この束の間の平穏は作者の仕掛けを最大限に効果的にする演出の一つ。音無き流れは水深しとは良く言ったものだ。
極力穏当な表現に逃げるならば、この作品の主眼はプロットに仕掛けられている。個々の事件を「いつもの」天藤節で処理する事で、天藤の真の企みが露見したときの寒気は凄いものがある。


とはいえ、すれた読者なら中盤で気付くネタだし、真相が明かされる最終章では天藤のエクスキューズも散見するので、やはり悪意を描く事に徹せない人なんだなというのが正直な感想。
むしろ、主人公の視点がいかに偏向しているのかが解かれていく過程にこの作品の真の面白さはあるのかもしれない。


天藤のユーモアや人間観が嫌いという人以外には広く薦める事のできるエンターテイメントの佳作。