赤い霧/ポール・アルテ

赤い霧 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

赤い霧 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


なんだかんだで3冊付き合ってしまったポール・アルテである。


何を書いてもネタバレになってしまうんじゃないかという感想が難しい作品だった。よって、個々の論点については語らない方針にする。


『赤い霧』は非常にモノマニアックな作品である。核となっているネタのためだけに、構成、語り、トリックの全てが逆算から導かれている。無駄がほとんどない作品だとも言う事ができる。
これは長所でもあり短所でもあって、余分であるスラップスティックな笑いも無ければ冒険もないので、読んでいてつまらないと感じる読者も多いかもしれない。しかし、その分要所要所で伏線が活きネタが際立っているので、ネタ盛り上がりはできる。『赤い霧』は他のアルテ作品と比べても特にこれが顕著だ。


これはおそらく妄想先ずありきな作家なので、実際書き始めて後から小説の帳尻を合わせてくるという書き方をしており、ゆえにネタの突飛さに比べ、プロット細部はいちいち整合性を持っているという内容になったんじゃないかと思う。このチグハグ感は特筆されるべきだ。


つまり、アルテは非常にアマチュアみたいな作風だということが解かる。だから、他のプロのような熟練した筆致はないという弱点は持つが、一種独特のパワーとネタの新鮮さという強みを持っており、ワンアンドオンリーな作風になっている。


邦訳前の過剰な煽動によってスター扱いされてしまった感があるが、本質はもっと素朴で気の良いオタクってところでしょうか。なので、無理に付き合う必要は無く、気の合う人だけ付き合えば良いというか。


と書いてしまったが、万人受けしない=駄作というわけじゃない。むしろ私は169P以降の怒涛の展開に驚いたクチである。こんな破壊力のあるネタはプロでも中々踏み切れないのに、飄々と書いてしまったというところを賞賛したい。現に内外問わず多くの大家が挑んだことのあるネタだが、ここまで踏み込んだのはアルテが初めてじゃないだろうか。


というわけで、とても面白く読めたので、おそらく来年の今頃私は4作目を手にとっているんじゃないかと思われる。