人喰い鬼のお愉しみ/ダニエル・ペナック

人喰い鬼のお愉しみ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

人喰い鬼のお愉しみ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)


爆殺。
それは数ある殺人の中で、最も死体の損傷が激しい。
ゆえに戦場写真は、常に人々の心を深い悲しみと業で捕える。


が、本書は連続爆殺事件を扱いながら、それを禁じえない笑いの対象として昇華させている。
死体の腕が吹き飛んで登場人物にビンタを食らわせるシーン、あるいはコマ送りで爆発する教授の写真。ペナックの軽い語り口もあってか、全て笑いを禁じえないのだ。


これは死体損壊諧謔とでも言えば良いのだろうか。日本では霞流一の感覚に近いのかもしれない。
死体を捨象してトリックに用いるのが本格ミステリ。死体を捨象して笑いを喚起するこの作品が、本格ミステリの形式を採ったことは必然だったのかもしれない。


この圧倒的な笑いの前には、モチーフの1つであるドストエフスキー的な命題も霞んでしまう。
もちろん爆殺ユーモアに限らず、もう1つのテーマである「家族」も真剣でいて間を外したユーモアに溢れている。


フランス特有の癖みたいなものはあるものの、最上級のユーモア小説の1つであることは間違い無い。