グラン・ギニョール城/芦辺拓

グラン・ギニョール城 (ミステリー・リーグ)

グラン・ギニョール城 (ミステリー・リーグ)


パスティーシュは自らがパスティーシュであることに自覚的である。その前提で書かれた作品。作中作という表現にすら限界を感じ、それを越えたところに新たなトリックを創出してみせるという野心がうかがえる。


トリックを構築する上での設定として必然性は高いので、試みと結果が上手く結びついた稀有な例だと思う。いたずらにメタ構造を弄ぶだけの凡作どもよりは、はるかにテクニカルだし真面目だ。この真面目さに好感が持てるか否かがポイント。315ページの7〜9行目などは見せ方はちょっと好みじゃないものの、やはり素晴らしい着地だと思う。


が、いかんせんメインの趣向がせっかく上手くいっているのに、細部で凡ミスが多いというのも事実。扱われる密室殺人のいくつかは、伏線がやや粗雑だし、これで「読者への挑戦」を挟まれても萎える。むしろ、「読者への挑戦」など挟まない方が潔い良作になっていただろうと思うと惜しい。


しかし、***(ネタバレにつき伏せ字)を戯曲的であると看破し、それを粋に活用する手腕はやはり読んでいて楽しいのである。一度限りの荒技だと思うが、上手い事やったなあという印象。