誕生パーティの17人/ヤーン・エクストレム

誕生パーティの17人 (創元推理文庫 (227‐1))

誕生パーティの17人 (創元推理文庫 (227‐1))


邦訳ではなんとも珍しいスウェーデンのミステリーである。しかも通り名が「スウェーデンのカー」。あまりにも気になるので読んでみた。


タイトル通り、この作品の登場人物は人数がやたらと多い。総勢20人である。こんな人数でパズラーなんかやられたら思考が暴発すること間違いない。
結果予想通り、中盤で頭がパンクしてしまう。
エクストレムもさすがに考慮したのか、エキセントリックなキャラ造りをこころがけているが、それでも謎解きを楽しむ余裕がなかなか生まれない。
これは難儀な作品に出会ったぞ、と思った。


しかし、この考えは解決部で払拭されることになる。
シンプルだが派手な密室トリックも面白いが、やはりこの作品の最大の見所は388ページ以降のアレであろう。度肝を抜かれました、マジで。
登場人物がやたらと多いのも、三人称多視点だったのも、全て全てアレのためだったんですね。はっきり言ってバークリーも驚倒するようなネタである。
もちろん、このネタをもってしてこの作品が後世に語り継がれるような類のものではないが、超絶技巧の度合いでは並ぶものはほとんどいないと思われる。


このネタがいかに凄いかをネタバレ解説。
このネタは告発されている人物を読者に錯覚させてしまうという叙述トリックだ。私は作者の罠にまんまと引っかかってしまったのだが、次の理由からだと思う。
前述したように、この作品の登場人物は多い。全員の動機やアリバイを全て把握できる人間などそうそうにはいない。よって、読者はしばしばその複雑さに思考停止状態に陥ってしまう。このため、ドゥレル警部の謎解きを聞いていても、それがヴェラを指していると錯覚してしまうのだ。
しかも派手な密室トリックの絵解きを見せられ、「どのように密室を造ったか」にばかり注意がいってしまい、「誰が」を棚上げしてしまうという二重の罠になっているところがすごい。
加えて、探偵が恋に落ちた相手が犯人というバークリー以降のクリシェまでもをミスディレクションに使っている。
これらの多重の罠がこの些細な叙述トリックの破壊力を抜群にしているのである。本当に考え抜かれたサプライズだなあと思った。
ただし、このトリックにも弱点があって、犯人がマーリンであるための証拠があまりにも少ない点である。アリバイが崩れたという点と、動機を持ち得るのがマーリンだけだったという点だけでは少し説得力にかける。


というわけで、最近読んだ旧刊では文句無しの1位である。古本屋を駆けずり回ってでも読む価値は大アリだ。