キャッチワールド/クリス・ボイス

キャッチワールド (ハヤカワ文庫 SF 431)

キャッチワールド (ハヤカワ文庫 SF 431)


 はっきり言って、読み終えた今でもこの作品を半分も理解できたと思わない。膨大なアイディアは氾濫し、ほとんどろくに説明もされないまま駆け抜けていく。章が変わる度に新しい次元に突入してしまうのである。物凄い被疾走感*1ワイドスクリーン・バロックの極北中の極北だろうと思う。


 法華経に支配された未来日本とか、悪魔召喚による異星人とのコミュニケーションといった「キワモノ」っぽいところばかりが紹介され、実際初読時にはそこにばかり目がいってしまう作品だが、メインアイディアである「コンピューターで再現される集合的無意識」がとにかく凄い。おそらく着想元であるユングがこの作品を読んだらいったいどんな顔するんだというようなシロモノで、これが航宙間戦闘や異星人とのコンタクトを何倍にも白熱させている。非論理を(似非)論理で強引にねじ伏せるわけ。このメインアイディアの圧倒感だけは何とか初読でも理解できたので、大変面白い読書だった。


 多分、各種解説にせっせと目を通して、何度も何度も再読していけば、次々とこの作品の他のアイディアへの造詣は深まり、面白さは増すのだろう。マニア殺しな作品というか何というか。


 初読時のわけのわからない圧倒感と再読時のわけのわかる圧倒感、この2つが味わえる稀有な書。つまりオールタイム級の傑作。もっとSFリテラシーを身につけたら再チャレンジしてみようと思った。

*1:世界が物凄いスピードで駆けていくため、自らが凄いスピードで疾走していくように勘違いしてしまうことを意味する。ちなみに本作はベイリー、ベスター以上だと思う