蜃気楼/ハワード・ファースト

作者: ハワード・ファースト, 平井イサク
出版社/メーカー: 早川書房
発売日: 1965/11
メディア: 単行本


 「はまぞう」は古いポケミスをカバーしていない。よって画像無しです。ちなみにポケミス番号は913番。


 「ハワード・ファーストって誰?」という人のために、すこし説明。ハワード・ファーストアメリカの歴史小説の第一人者らしく、映画『スパルタカス』の原作を手がけているらしい。1953年にスターリン国際平和賞を受賞している。SFも書いており、昔のSFマガジンに短編が掲載された。以上、訳者あとがきより。
 私も、この作品読むまでは存在すら知りませんでした。


 さて、肝心の作品内容。とあるビルを出た瞬間から記憶喪失にかかった主人公が、その時から殺し屋に命を狙われはじめる。何故、殺されなければならないのか。一体、ビルで主人公は何をしていたのか。といった記憶喪失サスペンス。


 プロットはやや性急。だが、この結末で長々と引っ張られていたらしょうもない作品になってしまったかもしれないので、これくらいの急ピッチでいいのかもしれない。
 主人公が結構いい味を出しているので、作品全体が香っている。以下主人公の台詞抜粋。



「お前みたいな男にぴったりな言葉があるんだ。ピストルをもってれば男だけど、ピストルがないと、からきし元気のないねずみみたいな男にぴったりな言葉がな。チンピラっていうんだ。チンピラだよ、わかったか!」(P98)


 上記のような威勢の良い台詞を殺し屋に放ったと思ったら、記憶喪失ゆえに頼る友達がいないので鬱になって泣く。テンションの上がり下がりが激しい主人公。色魔なのか朴念仁なのかも良くわからないし、頭が良いのか悪いのかもよくわからない。キャラは非常に不安定なんだけど、その不安定さがヘンな味になっていて、香っている。まあ記憶喪失という設定なので、躁鬱の激しさも計算済みなのかもしれない。


 以前に、この作品について「カーター・ディクスンみたいなトリックが使われている」と某氏に教えられたことがある。だから楽しみにしていたんだけど、事件の謎が解明される結末はちょっとしょぼい。もっと改良の余地があるはず。作者は本格ミステリを書こうとは思っていないはずなので、ここにケチつけてもしょうがないけど。


 結局、登場人物の変な味だけが収穫だった。まあ暇な人は読んでみてください。