海の稜線/黒川博行

海の稜線 (創元推理文庫)

海の稜線 (創元推理文庫)


 黒川博行を読むのは初めて。何から読むのがいいかと迷っていたが、本作創元推理文庫版の帯に「初期の最高傑作」と銘打ってあったので、この作品から読むことにする。警察小説なのにトリック満載らしいし。


 自動車爆破事件、そして身元のわからない男女の死体。こんなものを一体どうやって本格ミステリにするのだろうかとうかがっていたら、このセンセーショナルな事件は捜査が進むにつれて遠景へ。代わりに海運業界を舞台にした保険金目当ての偽装事故へとフォーカスは絞られる。
 このあたりから一気に事件は複雑化するのだが、そこは警察小説。組織だった捜査力で次々と事件の裏側が明るみに出る。ゆえに、約340ページの分量で事件解決。軽妙な会話も相俟って非常にテンポが良い。


 この作品の見所は組織内部のコンフリクト。
 この作品の警察機構には府警と所轄、キャリアとノンキャリア、大阪人と東京人といった対立構造が存在し、それが物語を盛り上げているというのはすでに解説でも触れられているが、実は犯人側もまた対立構造を内包した存在だった。
 くわしく書くとネタバレなのでぼかして書くが、それは事件の原因であり、トリックにもなり、捜査の糸口にもなった。
 つまり、対立を上手くまとめ上げ事件を解決に導いた警察と、上手くまとめられず足がついてしまった犯人は非常に対照的だ。ゆえに、本作における警察小説的テーマ、組織VS組織は上手く書けていると思う。こういうところは警察小説ならではの醍醐味じゃないでしょうか。

 
 主筋ではないとは言え多くの読者が気になるであろう、ブンと萩原、伶子の三角関係を激しく省いてしまったのはもったいないと思うが、非常に軽快かつ爽快な警察小説を読ませてもらった。このシリーズ、引き続き読もうと思う。