蚊取湖殺人事件/泡坂妻夫

蚊取湖殺人事件 (光文社文庫)

蚊取湖殺人事件 (光文社文庫)


 泡坂妻夫の最新短編集。文庫オリジナルという点はポイント高し。安価で大家の新刊が読めるというのは良い事だと思う。本格ミステリ4篇*1、非ミステリ3篇。


 冒頭作「雪の絵画教室」の密室トリックは正直良い出来とは言えないが、往年の名作「煙の殺意」で見せたような(ネタバレ)小さな事件がもっと大きな事件の一部だった(ネタバレここまで)という泡坂得意の手法を持ってきている。ゆえに何となく犯人像や真相に凄みが出てしまう。「煙の殺意」と探偵役が同じというのは狙ってやっているのかもしれない。


 表題作「蚊取湖殺人事件」*2はこの逆。問題編の最後でほとんど犯人を暴露しているようなものなので、フーダニットの興こそ殺がれるものの、犯人がわかったあとのアリバイ崩しが非常に派手で良い感じ。


 この2作の良いところを合体させたら傑作が生まれると思う。どちらの作品も凄さを垣間見せるものの、泡坂短編の中では水準止まり。
 

 「銀の匙殺人事件」は(ネタバレ)いくら何でも舞台を見て客がすぐに人数少ないことに気づくだろう(ネタバレここまで)という理由から評価せず。少女劇団が舞台というのは面白いけど。「秘宝館の秘密」もちょっと切れがない。
 残りの非ミステリの3作は泡坂作品に流れる雰囲気を理解するうえでは良い作品じゃないだろうか。寂莫とした抒情が良い。


 不満はある。が、独特な世界観は健在なのでファンなら読んでも良いと思う。


 追記:表題作のアリバイトリックに前例があるとご指摘いただいた。ゆえにちょっと評価は下方修正(3/21)。

*1:この内3篇がなぜか雪景色を舞台に。

*2:ちなみに、この作品では「看護婦」という表記は使われず、「看護師」という表記が使われているために、泡坂が現代を意識したことがわかるが、正直これがないと舞台が昭和だと言われても気づかないかもしれない。この手の時代性は、それが大きな意味を持たない限りは別にこだわる必要はないと思うので、特に文句はないけども。