ドアの向こうに/黒川博行


 ブンと総長シリーズ二作目。帯曰く「シリーズ中最も本格趣向の強い傑作」だとか。


 『海の稜線』の複雑性や「VS組織犯罪」に対して、『ドアの向こうに』は非常にシンプルな「VS知能犯」。個々の出来事も、遠景へと追いやられないために最後までテンションが高い。ゆえに、密室トリックなんてものが存在しても受容してしまう下地が出来あがっており、本格に漸近した作りになっていると思う。
 

 ただし、事件概要をシンプルにした弊害として、警察小説の醍醐味―じりじりと真相ににじり寄っていく高揚感は(あくまでも前作との比較として)薄れているのも事実だし、何より悪戦苦闘する刑事のドラマがあまり無い。「大阪VS京都」もとってつけたような扱いだし。ここらへんは濃味が好きか薄味が好きかといった好みの問題だろうと思う*1

*1:まさか、「VS東京」を扱った『海の稜線』は濃口で、「VS京都」を扱った『ドアの向こうに』は薄口なんて趣向だったりして。