中空/鳥飼否宇

中空 (角川文庫)

中空 (角川文庫)


 横溝正史ミステリ大賞の優秀賞受賞である著者のデビュー作。


 横溝正史におけるムラの内的論理を、荘子を用いた逆説で再構築した作品。
 逆説が持つある種の胡散臭さが充満する作品世界内において、登場人物達は押しなべて抜け抜けとしており、情念など雲散霧消してしまう。探偵役すらこの世界観に乗じてしまい、語り手をラストまで置き去りにしてアチラ側に行ってしまうために、全体として(肯定的な意味で)浮遊感のある印象を受ける。一瞬、アレやアレを思わせるラストも、最後には脱力オチだし。ただし、世界観を考えると非常に上手い畳み方だと思う。
 浮遊感といえば、本編終盤における推理合戦などまさにそうで、逆説に次ぐ逆説の応酬でどの解釈が正しいのかという論点がインパクトに欠ける。ただし、多重解決で逆説合戦というシチュエーションは珍しいし、本格ファンならば非常に「燃える」展開なので、これはこれで良いかも。


 こういうふざけていて浮わついている作風は、鳥飼独特の筆によるものなので支持したいが、いわゆる本格ミステリ雰囲気論者みたいな人には向かないかもしれない。おふざけが許容できる人には面白く読めると思う。