フライアーズ・パードン館の謎/フィリップ・マクドナルド

フライアーズ・パードン館の謎 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

フライアーズ・パードン館の謎 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)


 かつての情報部きっての名探偵=屋敷の新しい使用人=ラブロマンスの主役という主人公一人三役が特徴的。同時代のライバルであるセイヤーズやバークリーを睨んで、探偵がヒロインを救うために奔走するというのがやりたかったのだと思われるが、おかげである場面では徹底したリアリスト、ある場面では中学生並みに初心な恋愛というように人格が分裂気味だったように感じられる。ここらへんの匙加減はライバルたちに軍配が上がるか。


 トリックは大技一発というよりも、小技の積み重ね。正直な話「密室での溺死」という単語を聞いただけで、トリックはまさかアレとかアレじゃないだろうなと勘繰り、実際その予感とあまり大差は無かったのだが、周辺の小技で救われている。思ったよりは巧かった。


 最後にこの小説の最大の欠点を。殺人事件が起こるまでの150ページ。長い。長すぎる。紙幅の無駄だと思った。格別雰囲気に貢献するわけでもなく、物凄い伏線を潜ませているわけでもなく*1、ユーモアやロマンスで魅せるわけでもない。これはいただけなかった。


 密室トリックのバリエーションを愉しみたいという人はどうぞ。それ以外の人には少し薦められない。

*1:まあ、いくつかの伏線はあるけども。