闇のなかの赤い馬/竹本健治

闇のなかの赤い馬

闇のなかの赤い馬


 講談社ミステリーランドの1冊。


 もともと少年性が強い作家*1なので、子供向けのレーベルでもいつもの竹本であり違和感はない。ファンはおろか、竹本ビギナーでも竹本健治の作家性に触れることができるので楽しめると思う。


 竹本作品が持つ少年少女の「熱狂」は本作にも顕著で、超常現象説などのありえない解決を延々と論じる汎虚学研究会の面々にはニンマリさせられる。
 真実そのものを論理で模索するよりも、語る事で物語が紡がれていくことに楽しみを見出す彼らを面前にして、探偵小説の楽しみは純粋論理のみではないという当たり前のことをさりげなく教えてくれる演出がツボ。多くのミステリ読みの原体験であろう乱歩からして論理の化身ではないし。

 
 ただし、奥泉光ノヴァーリスの引用』のようにただ「語る」ことに主眼が置かれているわけではなく、ちゃんと本格として着地する。一瞬、「派手で面白いけど無茶苦茶だなあ」と思ったが、以下のことを思い出し、膝を打った次第。
 というわけで以下ネタバレ。


 →これは勘繰りすぎかもしれないが、寮生のほぼ全員が神父殺し犯人だったという設定は、中盤で触れられている聖書のソドムのエピソードを反転させたものだと考えられないだろうか。神が傲慢な人間に裁きを下したソドムのエピソードに対し、罪深き聖職者に寮生=群集が裁きを下したというような対応構造になっているように感じられた。この聖書的モチーフを使っていることでグンと真相が際立っている。なので、年若い群集にとって殺人という涜神行為が聖性を持ち、熱狂となり、行われてしまう過程を書いた物語として『闇のなかの赤い馬』は非常に秀逸だと思った。オーバーリーディングの感は否めないが、この読みならばやや強引な真相が非常に素晴らしく感じられる。


 このレーベルでも、これだけ内容が充実していれば、読んで損はないかと思われる。いや、むしろ積極的に読んでもいいレベルだと思う。

*1:といってもこの作家を7、8冊くらいしか読んでいないので、断じることに抵抗はあるが。