白戸修の事件簿/大倉嵩裕

白戸修の事件簿 (双葉文庫)

白戸修の事件簿 (双葉文庫)


 この作家を読むのは初めて。

 
 本作主人公の白戸修は、此度の改題および帯・あとがき・解説から、探偵の称号を拝命しているらしいが、探偵というよりは狂言回しといったほうがしっくりくる。
 通常のミステリが犯人は人々を欺き、探偵は奸計を白日に曝すという犯人VS探偵の構造をとっている。対する『白戸修の事件簿』の収録作品群は犯人と白戸の対峙こそ存在するものの、事件の早い段階から関係者は真相を看破し、白戸を目的達成の道具として扱うため、白戸は真相に気付いても「遅れてきた男」*1に甘んじてしまうことが多い。
 白戸の存在が犯行が暴露される契機となったからとはいえ、純粋に超然たる「探偵」と呼ぶのははばかられる*2。「狂言回し」こそ適称なのではないだろうか。もっとも「探偵」の定義など人それぞれに違うので、人によっては異論はあるだろう。


 事件の構造自体は上述したような、「業界関係者達の陰謀とそれに巻きこまれる白戸」を基調とした大同小異なパターンばかりなので、枝葉末節を問わねば同じような話が多く、ミステリとしての完成度はやや物足らない。
 しかし、ステ看や万引きといった題材選びのセンスは垢抜けているので、情報小説としてはかなり秀逸。プロットも題材を上手く消化している。


 わりと万人に薦められる作品だと思う。

*1:ちなみに、白戸が「遅れて」しまう理由は面白い。突発的に事件の渦中に放りこまれた白戸は、未知の世界に対して戸惑ってしまう。しかし、これに対して「慣れる」ことによってようやく違和感を感じとる能力を発揮させることができる。天賦の才ではなく、「慣れ」で事件に収集をつけようとするという発想は面白いかも。

*2:全ての短編がこの限りではないけど。