雨の午後の降霊会/マーク・マクシェーン

雨の午後の降霊会 (創元推理文庫)

雨の午後の降霊会 (創元推理文庫)


 あまりにも更新しないのもアレなんで、リハビリしてみる。


 基本的に私は、植草甚一セレクションに諸手を挙げて賛同してしまう性質である。『人魚とビスケット』しかり、『チャーリー退場』しかり。これらの作品群はどちらかというと燻し銀然とした作品であり、史的には傍流。あくまで「聖典を消化した直後に、口直しに読むならば」という前提は存在する。よって本作に地味だが渋い、陰鬱な誘拐サスペンスを期待して手に取った。


 が、読み進めていくとすぐに唖然としてしまう。犯人である主人公(達)は本物のサイキックであるばかりか、誘拐の動機も手段も全ていいかげん。やることなすこと全てが裏目に出る。逃走シーンで持病の喘息を起こす誘拐犯。犯人と捜査陣の息もつかせぬ心理戦を期待する向きなど皆無である。何から何までアンチ誘拐サスペンス。解説は控えめにほのめかすにとどめているが、どう考えても笑うしかない悪いジョークみたいな作品だ。


 そして、売りであるラスト7ページ。これはミステリ史上に名だたる悪夢だ。
だって、主人公が○○に○○されて○○しちゃうんだぜ? どう考えてもバカミスですな、これ。それも重度の。


 というわけで、最初の話題に戻る。「聖典を消化した直後に、口直しに読むならば」という前提は何も変わっていない。優れた誘拐小説など世にはいくらでもある。しかし、その後に読むとこの作品は異常に味を出してくる。あまり話題になっていないが、今期の収穫の一つだと思う。