火刑都市/島田荘司

火刑都市 (講談社文庫)

火刑都市 (講談社文庫)


 久しぶりの島田荘司。いわば私の原体験に限りなく近いところにいる作家であり、時折無性に読みたくなってしまう。というわけで未読だった本作を手にとってみた。


 正直なところ、東京と「幻の都」という対立構造と「寒子」の人生遍歴は上手くシンクロしていない。ロマンチシズムを前面に押し出した前者と、生々しくうす寒さを感じさせる後者の噛み合わなさにいまいち乗りきれず、読後の余韻が今一歩だった。全盛期*1の島荘アベレージなら「豪華主義」に上手く着地させるはずなのに、どうにも本作は食い合わせが悪い。


 しかし、講談社文庫版379頁で明かされるある真実は、島田荘司にしか書きえないというような代物であり*2、さすがに溜飲を下げた。
 グロテスクなものを白々しく*3書き、読者に許容させてしまうという点においては島田は天才の域であり、比肩するものはいない。(書きたい)対象さえとち狂わなければ、その筆はまさしく神である。


 なので、結局作家性の凄みに押し切られた形の読書になった。この作家とはまだまだ付き合う事になりそうだ。

*1:少なくとも本作を書いた時はそうだと思う。

*2:一応念のため補足しておくが、ネタ自体ではなくその書き方が、ということ。

*3:当然、良い意味で。