午後の死/シェリイ・スミス

午後の死 (ハヤカワ・ミステリ 1414 世界ミステリシリーズ)

午後の死 (ハヤカワ・ミステリ 1414 世界ミステリシリーズ)


 はて、非常に何かに読後感が似ている。それもつい最近味わった何かだ。読み終え、しばし考えたら答えは出た。そう、ポール・アルテである。


 といっても、本書はカーにリスペクトを捧げているわけでもなく、奇天烈なトリックや血みどろの惨劇があるわけではない。老女の回想は伝統的な英国ミステリのフォーマットに則っている。
 では、なぜポール・アルテなのか。


 ここからはかなり筆者の推測だが、思うに『午後の死』はアガサ・クリスティーを非常に意識して書かれた作品である。ヴィクトリア朝時代への憧憬や、不幸な結婚に疲れてアラビア世界に逃避した老婆、ソフィアの人物像などの全てがクリスティー(作品)との符合を示している*1
 老婆アルヴァ・ハインは作中度々ヴィクトリア朝時代の英国を揶揄しているが、それが単なる嫌悪ではなく、むしろ遠まわしな郷愁であることは容易に読み取れる。


 ゆえに、『午後の死』とクリスティー作品の関係は、ポール・アルテディクスン・カーに酷似していると思った。


 アラビアンナイト風の語り口による独特な雰囲気や、なかなか小気味の良いラストなど、非常に洒落たミステリーに仕上がっている。英国本格好き、とくにクリスティー好きにはたまらない作品なんじゃないでしょうか。

*1:そう考えると本作のオチは最高だ。