メルトン先生の犯罪学演習/ヘンリ・セシル

メルトン先生の犯罪学演習 (創元推理文庫 145-1)

メルトン先生の犯罪学演習 (創元推理文庫 145-1)


 北村薫創元推理文庫最強と絶賛していた*1ので、今まで未読だった自らを恥じつつ手にとった。
 

 旧装丁では時計マークをあしらわれ、ユーモア系リーガルとして紹介されているようだが、むしろ流行りの奇妙な味系列。司法をも相手にした強烈なおちょくり精神が全編フルに炸裂する。何気にフィニッシングストローク連発のパワータイプである。


 しかし、各編の素晴らしさもさることながら、私がより感心したのは連作を串刺しにする外枠だったりする。
 メルトンが醸す「語る行為が持つ楽しさ」が人々に伝播していく様といったら!これほど作品内に高揚と歓喜が満ちた作品は他に類を見ないかもしれない。とにかく、小説自体が持つ熱気というものをメタなレベルで感じさせてくれるのである。
 とりわけ感心したのは「オチを解かりやすく」だとか「時間がないので小話を」といった要望にメルトンが応えていくシーン。小説の自在性を強く認識させてくれる。
 いくつかの短編にはブラックなオチがつくが、読者に訪れるのは必ず歓喜という珍しさもある。


 創元推理文庫最強という振れ込みは誇大でもなんでもない。たしかに傑作。
小説が好きな人全てに薦める。

*1:北村薫のミステリー館』(新潮社)P495