将棋殺人事件

奇妙な殺人事件の噂を追及することがこの作品の1つのテーマとなっている。

噂と現実は片方が描かれれば、もう片方も影のように姿を現す。虚実を相対化しそれらの絶対性を揺らがせる行為こそ、この作品の最大の試みに他ならない。「噂」の事件に対しては精密な論理を、「現実」の事件に対しては捻れた狂気を用いて迫るという探偵法が用いられているのも示唆的だ。
解説の山口雅也は、竹本作品を「世界にあって虚も実もないことを暴こうとした」と評しているがこれは慧眼。

『将棋殺人事件』は竹本作品を読む上での里程標となりそうだ。『匣の中の失楽』や『ウロボロス』シリーズが孕む試みを理解するための必読書だと思う。