トランプ殺人事件

正直に告白してしまうと私はコントラクト・ブリッジを最後まで理解できなかった。ゆえに、読んでいてココとココがあーなって、このゲームにはこんな背景がありましたという部分の面白さはさっぱりわからず。無念。

しかし思うに、竹本はこの3部作を通して、読者が簡単についてこられるようにミステリを書いたわけではないのでは。
コントラクト・ブリッジ説明表とか『将棋殺人事件』ならば多々ある詰将棋とか、とてもじゃないが読者が立ち止まって考察する類のものではないと思われる。『木製の王子』のアリバイ表並みだ。
事件の中心を成すコントラクト・ブリッジのシーンの段階では読者に対してゲームの説明は一切無く、第1部のラストにようやく説明が入るくらいなので、この「全ての読者がついてくるとは思っていない」というのは当たっていそうだ。

しかし、この作品においてはコントラクト・ブリッジの詳細など知らずとも、密室トリックや暗号は理解できる。これは理解力の乏しい読者(私含む)のための配慮なのか。

否、竹本がやりたかったのは「ゲームマニアだけのための小説」および「ゲームの知識に乏しい読者にもわかりやすい小説」ではない。
竹本のゲーム3部作はいわば「天帝に捧げる果物」。「一文たりとも腐っていてはならない」。
デビュー作の呪縛を断ちきるために竹本が苦心した痕跡は多々見うけられる。そのような条件下で書かれた竹本の<世界>への挑戦。ゆえに手を抜くわけにはいかなかったというところではないか。