妻に捧げる犯罪/土屋隆夫


とりあえず、土屋の作品を発表順に読み進めている私だが、とうとう土屋の下降期が始まったみたいだ。前作『針の誘い』が絶頂だったのに対し、今回は谷底だった。


一本の間違い電話から、「起きたはずの事件」を推理していくという趣向自体は面白く、そのモチベーションも「間男と心中した妻に似た声の女ともう一度話したい」という土屋お得意の「妻の不貞」テーマとの絡みも良い。言うならば、デクスター作品の妄想に、その妄想を支える強力なドラマが存在している感じ。考えてみれば、土屋隆夫を海外作家に例えるとデクスターが一番近いような気もする。千草シリーズなんかは特にそう。


「なんだ、それじゃあ傑作じゃん」
そんな事はない。論理展開がわりと適当で、いつもの緻密さは皆無なのである。ラッキーパンチ当たりすぎ。あれほどの名作群を書いてきた作家の腕じゃない。土屋がこの作品で目指したのは前作までのようなカチカチの本格ではないと自覚しつつも、興ざめの感は否めない。


で、事件の輪郭は中盤にほぼ解明される。問題はその後。表題を思わせる事件が起きるが、オチのつけ方は下手なショートショート。ぐへー。


というわけで序盤だけなら買うが、他がアウト。あと、この作品あたりから増してきたエロ描写は私はセーフ。つーか、エロあっての土屋。犯罪を起こすのも、解決するのもエロが原動力というのは、当たり前のことなのにスルーする作家が多い中では評価したい。鮎川のストイックさはそれはそれで魅力的だと思うけど。